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fujibakegaku

紙版画Ⅱ

 2015年8月の半ば、東京ビッグサイトの片隅で絵を売っていた。手のひらにのる程の大、小の和紙に摺りあげた紙版画に百均で仕入れた板切れと塩ビのクリアケースを切り分けて、その間に挟んでネジで四方をとめて、豆カンを付けて、地味に手間はかかったが、それなりのフレームが出来上がっていた。

 自分の絵を売るのは初めてだった(中学の頃、友人にふざけて紙切れに描いた絵で50円を貰った事はあったが)。なんとか売れそうな値段、手のひら大の絵を450円、その半分の小の大きさを300円で売り始めた。左右と後ろに仕切られた白い木製パネルの空間に毛布を敷いて、隅に座り、床に絵を敷き詰めた。背後のパネルにはあえて一文字に5,6点だけフレームに入れた絵を画鋲でとめた。床に置いた絵は版画の摺りの違いを見せたいのと、手に取ってもらって会話のきっかけが欲しくてフレームに入れず、版画ごとに重ねて置いた。夜通しの作業と生来の要領の悪さで、開場の1時間以上過ぎて到着、店構えで、あとで話した前で店を開いていたおねえさんに呆れられていたようだった。

 店を始めて1時間くらいたった頃、中国人っぽい人が「樹」の版画を手に取って、少したどたどしい日本語で「いくら?」と聞いてきた。「450円」と言うと下を指さす手ぶりをしながら、「安くならない?」と聞いてきたので、とっさに「300円。OK?」と言っていた。今振り返っても、あうんの呼吸としか言いようがない。チャイニーさんはすかさず買ってくれた。

 僕の絵が生まれてはじめて売れた瞬間だった。(続く)


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